ハロゲン化アルキルは新たな炭素炭素結合を生成する上で非常に重要な反応です。
薬学で重要なハロゲン化アルキルの反応の中でこのページではSN1およびSN2反応を解説します。
この反応は求核置換反応の一種です。競合する反応としてE1反応がありますが、反応温度の条件によってSN1反応になるかE1反応になるかが決まります。E1反応は脱離反応ですから、反応条件をより高温にしなければなりません。試験的には同じ試薬と基質の組み合わせでもより高温で反応している反応式があればそれはE1反応つまり脱離反応がより優位に進行すると考えて間違いはありません。
SN1反応で重要なポイント(暗記項目)
・基質のみの濃度により反応速度が決まる。(基質ってとこがミソ)
・反応条件の液性は弱酸性もしくは中性以下(プロトン性溶媒で反応活性化)。
・第1級炭素化合物はほとんど反応しない。
・カルボカチオン中間体を経由して反応する。
・生成物はラセミ化する。
SN1反応で重要なポイント(理解する項目)
暗記項目での3個目と4個目は複合して考えると理解がしやすいです。
ハロゲン炭素は脱離した後に必ずプラスに荷電します(カチオン)。カチオンは電子が通常よりも薄いため、常に新たな電子を求めているわけです。そこで重要になる考え方がI効果(誘起効果)です。誘起効果とは炭素の鎖やその他の官能基がもともと持っている電子の束をより電子が薄い場所へ少し分け与える効果のことを指します。1級炭素はカチオン化している炭素に供給する電子が1単位(説明のための仮想的な単位)、2級炭素は2単位、3級炭素は3単位なわけですから、よりカチオンのプラス性を薄めてくれ、他の試薬と反応せずに安定にカチオンの状態を維持できるのが3級でその次が2級です。SN1反応は安定なカルボカチオン中間体を経る反応なのでこのカチオンの安定性が最も低い1級炭素はSN1反応が進行しやすいと考えるのです。
2つめの理解すべきポイントは反応物のラセミ化についてです。求核置換反応はまずはハロゲンが炭素から脱離するところからスタートします。SN1反応はカルボカチオンの状態で一旦中間体として反応が一時停止します。ここに求核試薬が反応するのですが、中間体として存在する場合は1つの反応できるスペースに表側から試薬が反応するか裏側から反応するか選べるわけです。そうするとおもてからバージョンがR、裏からバージョンがSのように(仮にです。置換基によって実際の立体は異なります)異なる立体の化合物が2種類生成すると考えられるのです。
SN2反応もSN1反応も本質的には同じ求核置換反応です。
この二つのそれぞれの特徴を理解しておけば、今後の合成化学を学ぶ上で大変有利になってきます。
SN2反応も暗記項目と理解する項目に分けて解説します。
SN2反応で重要なポイント(暗記項目)
・基質と試薬の2分子の濃度に依存して反応速度が決まる。
・反応条件は塩基性もしくは中性以上。(非プロトン溶媒で反応活性化)
・第3級炭素化合物はほとんど反応しない(立体が混んで試薬が近づけない)
・中間体を経ない反応
SN2反応で重要なポイント(理解する項目)
暗記項目の3、4番について複合するとよく理解できます。SN2反応に関しては中間体を経ない反応ですから、ハロゲンが脱離するのと同時に求核試薬が反応します。すなわち求核試薬が反応する際に基質に十分なスペースがないと反応できないのです。これがもしハロゲンが脱離して一旦中間体を経る反応(SN1)であれば元の構造から脱離した分スペースがありますが、中間体をへないからこそ基質がよりかさの小さい構造(1級、2級炭素)の方が有利に反応できるのです。
ここまでそれぞれの反応について順に解説をしてきましたが、試験的にはSN1とSN2を見分ける必要があります。以下にまとめましたので参考にしてください。
ポイントは2点(必ず2つのポイントを両方使って見分けること)
・溶媒がプロトン性か否か
プロトン性溶媒→SN1反応
非プロトン性溶媒→SN2反応
・基質の反応部炭素の級数
1級→ほぼSN1はあり得ない。
3級→ほぼSN2はあり得ない。
2級→溶媒で見極め
ハロアルケンおよび芳香族ハロゲン化合物は、sp2混成軌道の炭素とハロゲンの結合(C-X結合)が電子の共鳴によって安定化され、切れにくいので注意です。ハロアルケンと芳香族ハロゲン化合物は求核置換反応を受けないことをよく理解しておきましょう。
ハロゲン化ビニル
(ハロエテン)
ハロゲン化アリール
(ハロベンゼン)
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